マクロ経済2(金融政策)
マクロ経済2(金融政策)
2. Monetary policy
中央銀行は、ビジネスサイクルのブレを抑える(ビジネスサイクルをスムースにする)ために、金融政策(monetary policy)を使い、物価の安定(price stability)と就業率の向上(full employment、リアルGDPが上がってOutputギャップがポジティブになれば就業率は上がる)を図る。
A. 金融政策(Monetary policy)とは
金融政策とは、短期金利の調整と量的緩和+フォワードガイダンスを使って、中央銀行の目的である物価の安定と就業率の向上を達成すること。
- Conventional Monetary policy
・短期金利の調整(Short-term interest rates)
- Unconventional Monetary policy:ゼロ金利時(Zero lower bound)において使用される
・量的緩和(Quantitative easing)
・フォワードガイダンス(Forward guidance)
将来における政策金利(短期金利)をアナウンス/コミット(ロングタームの金利をターゲット)
B. 金融政策(Monetary policy)によるインパクト
前述の通り、金融政策を通じた短期金利、マネーサプライの変動は、Demand shocks(総需要曲線のシフト)を引き起こす。
Aggregate Demand (YD) = Consumption + Investment + Government + (Export-Import)
- 短期金利(Short-term interest rates)の切り下げにより、企業や消費者、政府の調達コスト/実質金利(cost of borrowing)を低下させることで、総需要の構成要素であるConsumptionやInvestment、Governmentを増加させる。
- 量的緩和(Quantitative easing)によるマネーサプライの増加により、総需要の構成要素であるConsumptionやInvestment、Governmentを増加させる。
金融政策は、Demand shocksによるビジネスサイクルの変動には対応できる(金融政策の目的である物価安定と雇用の拡大を達成できる)が、Supply shocksによるビジネスサイクルの変動には対応できない(金融政策の目的である物価安定と雇用の拡大を達成できない)。
※Output gapがポジティブなときは失業率は低下するという負の相関関係にある。
- Demand shocksによるビジネスサイクルの変動
金融政策は短期的には効果がある(短期的には金融政策の目的である物価安定と雇用の拡大/GDP拡大を達成できる)が、長期的には影響を与えられない(長期的には金融政策は物価にしか影響を与えられず雇用の拡大/GDP拡大には影響を与えられない)。
前述の通り、長期的には(1ビジネスサイクルの変動が完了する約10年以内のタイムスパン)、供給量は、あるTFPの水準で経済全体の設備と労働力をフル稼働させたときの限界値/フルキャパシティに収束する(設備と従業員を残業を強いたりフル稼働以上に稼働させることは短期的には可能だが、長期的にその限界以上の水準を維持することはできない)。そのようなこれ以上供給量を増やすことができない状態においてさらなる需要の増加があった場合(需要曲線が右シフトした場合)、供給量は増やせないので需要を抑えるために価格を上げることとなる。つまり、金融政策は長期的にはリアルGDP(Output)/雇用の拡大には影響を与えられず、物価の上昇/インフレを招くのみとなる。
また短期的にも、その時の経済状況次第で(好景気が不景気かで)、物価とOutput(リアルGDP)に与える金融政策の影響度合いは変わってくる。
不景気時においては、実質GDP(ここでは実際の供給量/Output)がポテンシャルGDP(フル稼働時の供給量、最大値)よりも低いときは、前述の通りOutput gapがネガティブであり(デフレギャップ、不況時)、設備や労働力には空きがある状況である(稼働していない設備や時間が余っている従業員)。そのため、そのような供給過剰な状態で金融政策により需要が増加した時には、既存の使用していなかった設備や労働力を稼働させることで対応できるので、新たなコストはほとんどかからず(マージナルコストはほとんど上昇せず)、物価上昇なし(もしくは微増)でOutput(生産高、ないし実質GDP)を大きく高めることができる。
好況時においては、上述の不況時とは異なり、稼働していなかった設備や労働力は減少していき、さらなる設備投資による設備増強や人員増強が必要となっていき、加えて好況時にはコモディティの価格も高くなることから、新しく一単位当たりの生産高を増やすためのコスト(マージナルコスト)が増加し始め、供給量を増やすとともに物価も上昇していく。これにより、総供給曲線はフラットから右上がりの曲線へと変化する。そのため、金融政策により需要が増加することで、Output(生産高、ないし実質GDP)も増加はするが、それ以上に物価が大きく上昇することとなる。
また金融政策はDemand shocksを引き起こすものであることから、需要変動による不況(Demand-driven recessions、消費者や投資家の需要減による不況)が起きている場合には簡単に金融政策の影響を相殺されてしまう。
- Supply shocksによるビジネスサイクルの変動
短期金利調整/量的緩和によりDemand shocksを引き起こす金融政策は、前述の通り、Demand shocksによるビジネスサイクルの変動をスムースにすることは可能である(金融政策の目的である物価安定と雇用の拡大を達成できる)が、Supply shocksによるビジネスサイクルの変動には対応できない(金融政策の目的である物価安定と雇用の拡大を達成できない)。
ネガティブなSupply shocksによってスタグフレーションに陥った場合、金融政策はDemand shocksを引き起こすものであることから、金利引き下げ/量的緩和によって総需要を拡大させる(需要曲線を右シフトさせてしまう)と、Output(リアルGDP、総産出量)の減少には歯止めをかけることができる(失業率の縮小は可能)が、物価水準が上がってインフレがさらに加速してしまう。
逆に金融引き締め/金利引き下げによって総需要を減らす(需要曲線を左シフトさせてしまう)と、インフレは抑えられるがOutput(リアルGDP、総産出量)がさらに落ち込む(失業率が拡大する)こととなってしまう。
よってSupply shocksによるビジネスサイクルの変動に対して、金融政策による需要変化(Demand shocks)を与えたとしても、上述のトレードオフを引き起こしてしまう。ただ究極的には、政府/中央銀行としてはハイパーインフレになることは絶対に避けたいことから、インフレを抑えることを取り、Output(リアルGDP、総産出量)の減少を受け入れる形となるだろう。
C. The Taylor rule(テイラールール)
テイラールールとは、中央銀行が誘導する政策金利の適正値をマクロ経済の指標により定める関係式。この式に基づく政策金利は、現在のインフレ率が目標インフレ率を上回るほど、また、リアルGDP成長率がポテンシャルGDP成長率(その差を需給ギャップと呼ぶ)を上回るほど引き上げられ、反対にそれぞれの値が下回るほど引き下げられることになる。
金利がゼロ金利状態(Zero lower bound)の時には、テイラールールによる中央銀行の政策金利(短期金利)の予測は難しい。なおTaylorは実績インフレ率をGDPデフレター、BernankeはCore CPIを使ってFF金利の適正水準を検討。
Ben Bernanke |
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