Simple and Clean

このブログは、いわゆるドメな日本人がMBAトップスクールに入るためにはどうすべきか、 という観点にフォーカスしており、私の経験/集めた情報をまとめたものです

ファイナンス1(資本構成)

ファイナンス1(Capital structure)

 

最適な資本構成は、

① デット比率を高めることによるタックスメリットと破綻懸念コスト(破綻コスト×破綻確率)の中間で決まるというトレードオフ理論

② 「経営陣と投資家との対象企業に関連する情報の非対称性に起因する外部からの資金調達に関するコスト」が小さい資金調達手段/当該情報の非対称性が与える影響が小さい(投資家にとってのリスクが小さい)資金調達手段から利用するというペッキングオーダー理論

(いま経営陣が外部から資金を調達したいと言い出したということは、きっと今は「経営陣の思う自社の企業価値」が「マーケット(外部)からの評価(株価やクレジットスコア等)」よりも低い/過大評価されているからだろう、という投資家の判断により、対象企業の評価が下がり、結果として現状より低い評価水準をベースに外部からの資金調達を行うこととなってしまう)

という2つの考え方がある。

 

Modigliani-Miller Theorem

  • 企業価値は資本構成に影響を受けない
  • 企業価値はリアルアセットとgrowth opportunitiesで決まるのであって、発行する証券(株、債券、メザニン)の種類から影響を受けない
  • Financial decisions(資金調達に関する意思決定)は企業価値とは無関係

VL=VU=EL+DL

 

Finance transactionそのものは投資金額と得られるCFの現在価値が同じ、つまりNPVがゼロのトランザクションであると考えられることから(アービトラージがないということ)、どれだけ資本取引を増やそうとも減らそうとも企業価値への影響はないということ。

もしある資本構成のほうが他の資本構成よりもバリューが高いということになれば、投資家は前者のバリューの高い資本構成の会社を売って、後者のバリューの低い資本構成の会社を買う。その結果、アービトラージが働いて、両者での差はなくなる(アービトラージのオポチュニティがあるということは、同価値にもかかわらず価値に差がある状態であり、ミスプライシングであるということ)。

 

デットのほうがより安全なので、もし全体に占めるデットの割合を増やしたら(エクイティの割合を減らしたら)、企業のオーバーオールの調達コストは下がるのではないか?

➡ No:デットの割合が増えることで、破綻懸念コストが上がり、エクイティがよりリスキーになることから、エクイティコストが上がる。よって、デットの割合を増やすことによる調達コストの低減効果は、エクイティコストの増分だけオフセットされ、結果、企業の調達コストは変わらない。デットを増やすことは企業のアセットのリスクには影響を与えないが、エクイティのリスクには影響を与える。

 

Assumptions of Modigliani-Miller Theorem

  1. タックスおよび倒産コストはない ➡ Trade-off Theory
  2. 投資活動は資本構成によって影響を受けない ➡ デットホルダーとエクイティホルダーとの利益相反
  3. エージェンシーコストはない(経営者は株式価値の最大化を目指す) ➡ デットホルダーとエクイティホルダーとの利益相反、マネジメントと投資家との利益相反
  4. 情報の非対称性はない(投資家は経営陣と同じ情報を持っている)
  5. 効率的マーケット(取引コスト(株の売買手数料等)はなし、代替する企業が存在する完全市場)

 

MM理論の利点 

資本構成の違い(もしくはfinancialに関する意思決定)によって企業価値に影響が出ている場合には、これらのアサンプションのどれに問題があるか、どのアサンプションにどれだけのインパクトがあるかを確認する。このアサンプションからの離れ度合いで、最適な資本構成を考えたり、新しい手段を用いてこのアサンプションからの離れ具合を利用することを考える。

 

 

The Trade-off Theory

タックスメリット(Tax shield)と破綻懸念コスト(Expected cost of financial distress)とのトレードオフ(負債に伴うメリットとデメリットのトレードオフ)。

資本構成を考えるにあたり、どこまでデットを積むか、を決める要因。

 

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 VL=VU+PV(Tax shield)-PV(Expected costs of financial distress)

タックシールドの曲線が直線ではないのは、大量の支払利息発生による欠損金利用にも限界があるから。

 

破綻懸念コストとタックスメリット、それぞれのマージナルコスト(一単位当たりのコスト)とマージナルベネフィット(一単位当たりのベネフィット)がイコールになるレバレッジ比率が、オプティマル資本構成と言える(デットを一単位動かしたときのそれぞれのコストおよびベネフィットの変化が同じになるポイント)。

 

(NOPBT-rD*Debt)*(1-tax rate)+rD*Debt = NOPBT*(1-tax rate)+tax rate*rD*Debt (=tax shield)

このタックスシールドの計算は、(Tax rate*rD*Debt)/(rD)=Tax*Debt

Debtの金額がfixしているときはデットの割引率はデットコスト、全体に占めるDebtの比率がfixしている場合(リバランス)はデットの割引率はWACC(rA)

 

Expected cost of financial distress (破綻懸念コスト)= Probability of Distress * Distress cost

破綻コスト(Distress cost)は、直接と間接費用がある。

直接費用は、倒産に伴う裁判や管理に関するリーガル費用、倒産に対処するために使われるマネジメントのリソースと時間、破綻時における資産の投げ売り(fire sale)に関するコスト。

間接費用は、破綻の可能性が出てきた時に顧客が製品の購入をやめたり、取引先が商品の納入を渋ったり、資金調達ができないため優良な投資案件を見送ったり、というように会社の利益やキャッシュフローを減少させる間接的なコスト。加えて、Wealth transferやRisk shifting、Debt overhangといった倒産懸念時に発生する株主と債権者との間の利益相反も間接的なコスト。

 

レバレッジを高める(破綻懸念コストを下げる):企業規模、固定資産、資産のtangibility

レバレッジを弱める(破綻懸念コストを上げる):収益のボラティリティ、広告費用、研究開発費、倒産確率

 

 

Agency Issues

A. デットホルダーとエクイティホルダーとの利益相反

デットホルダーとエクイティホルダーには利益相反がある(リスクアペタイトの違い等)。なぜならエクイティホルダーは企業のコールオプション保有していることと同義であるが、デットホルダーは企業のアセットオーナーかつコールオプションの売り手と同義であり、それぞれで違うオプションを持っているから。

 

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3つのデットホルダーとエクイティホルダーとの利益相反(いずれも企業が破綻する際に問題となる事項で、破綻懸念が全くないときはこれらの問題は生じない ➡ よってこれらは間接的な破綻コスト(indirect costs of financial distress))

  1. Wealth Transfer from debtholders to shareholders (“Cashing out”)
  2. Risk shifting (Asset substitution):エクイティホルダーはよりリスクを好む
  3. Debt overhang (Underinvestment problem)

 

Wealth transfer

既存デットと同条件のデットで新規調達してリキャップした場合(新規デットを原資に自己株買い)、発行体が倒産してしまう場合には、新規デットのバリュー/時価は額面より低くなり、結果として既存デットのバリューも新規デットのバリューと同じになり(倒産時の残存価値を2つに分けるイメージ)、額面よりも低い価値となる。その既存デットのバリューの減価分が、自己株買いを通じてエクイティホルダーへ流出する。つまり、追加でのデット調達が既存のデットホルダーの利益をダイリュートし、そのダイリュート分がエクイティホルダーに流出する。

 

Risk shifting(倒産時にデットホルダーも全額回収できない場合)

企業が倒産するときは、デットホルダーが先に徴収し、エクイティホルダーがいくら入るかわからないので、エクイティホルダーはCFがよりボラタイルなものを好む。もし倒産してデットホルダーも全額回収できない場合はエクイティホルダーに入る金はゼロ。よって、そのような倒産をする可能性がある場合には、エクイティホルダーはアップサイドしか受け取れないので、リスクの高いプロジェクト(NPVがマイナスだとしても成功すればプラスが大きいギャンブル性の高いもの)を実施しようとする。しかし、デットホルダーとしてはNPVがマイナスのものに投資をされてしまうと回収できるものが減ってしまう可能性が高いので嫌がる。

 

Debt overhang(倒産時にデットホルダーも全額回収できない場合)

倒産しかかっているときに、たとえNPVがポジティブなPJがあったとしてもエクイティで追加調達しない(エクイティホルダーは投資しない)。なぜならそのPJで稼いだCFはデットホルダーに行ってしまうから(既存デットの返済にまわる、エクイティホルダーの資金で投資したのにエクイティホルダーはその利益を享受できない)。この理由から、デットを使わないと主張するグロースカンパニーもいる。またこの理由から倒産時においてはDIPファイナンスが行われる。

 

B. マネジメントと投資家との利益相反

モリジアーニミラー理論では、マネジメントは株主価値最大化(投資家の価値を最大化)をすることを前提としていたが、実際としては、マネジメントのインタレストは投資家のインタレストとは異なる可能性がある。この違いがマネジメントと投資家との利益相反につながる。

 

  • マネジメントが努力を怠る
  • マネジメントがリスクを取らなくなる(静かな生活を)
  • フリーキャッシュフロー問題(負のNPVのPJへの投資)

 

そのためにコーポレートガバナンスをきかせる。

  • モニタリング(取締役+銀行によるモニタリング)
  • 経営陣のインセンティブ設計(大部分の報酬を株価連動(SOやボーナス、自社株投資)) ➡ マネジメントと株主のインタレストを同じに。ただし、短期的な株価パフォーマンスを追求しがちになるリスクあり
  • デットもしくは配当の活用によるフリーキャッシュフロー問題の回避(投資家に対して余剰キャッシュを吐き出させる)、またレバレッジ比率を高めることによるエクイティ(時価総額)の縮小により持ち分比率の高い株主が生まれ、議決権を多く持つ株主によりモニタリングが厳しくなる(また経営陣の持ち分比率も上がることでマネジメント自身のインセンティブ強化につながる)

 

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Information Asymmetry

MM理論は経営陣と投資家との間で情報の非対称性はないという前提に立っているが、実際にはマネジメントはインサイダー情報含め、投資家よりも自社に関しての情報を抱えている。

そのため、マネジメントによって決定された資本構成(キャピタルストラクチャー)は、投資家/マーケットに対してのシグナリング効果を持つことになる(レバレッジ比率を高めることや自己株買い(現在の株価は割安)はポジティブ、株の新規発行(現在の株価は割高)はネガティブなシグナル)。

またこの情報の非対称性はペッキングオーダー理論につながる。

 

ペッキングオーダー理論

情報の非対称性が大きいほど、情報の非対称性に由来する逆選択の費用/Cost of external finance(新株発行というネガティブなシグナリングにより、自社が過大評価されているとマーケットが勘違いした結果、自社の評価が下がり、不当に低い価格での新規増資となり、既存の株主の持ち分は大きくダイリュートし、たとえ調達が正のNPVのPJに使われたとしても、既存株主の利益は資金調達せず投資をしなかったときに比べても小さくなる、この既存株主の利益の減少額がCost of external finance)が大きくなる。

情報の非対称性が大きいほど、新たに資金調達するときに、発行体は自身の価値がオーバーバリューされていると感じているのでは?という疑惑が高まる。そのため、発行体は投資家からいわれなき逆選択によるコストの発生(Adverse selection、銀行との取引では発行体との協議によりこの逆選択を弱めることができる)、自社の現在のマーケットからの評価額が実際の価値よりも高くなっている/過大評価されているといういわれなき誤解を避けるために、経営陣と投資家との情報の非対称性が小さい、ないし情報の非対称性が与える影響が少ないファイナンス手段から利用することになる(ファイナンスはするのだけども自社の現在の評価は決して過大評価されているものではないという主張)。

情報の非対称性にセンシティブな資金調達手段ほど、このCost of external financeが増加する。よって企業はCost of external financeの小さい、投資家と経営陣との情報の非対称性による価値への影響度合いが小さい(less sensitive to asymmetric information)資金調達手段から利用する。よりシニア(返済順位が高いので返ってこないリスクがほかよりも小さい)、短いマチュリティ(短期での貸し付けなので長期債務よりも返ってこないリスクが小さい)、担保条件が良い(デフォルトしても担保で回収できるので返ってこないリスクが小さい)、informed providers of capitalに買われている、資金調達手段はこのコストが低下する。

 

よってペッキングオーダー理論から、外部からの資金調達を必要としないような高い利益を計上している企業は、Cost of external financeを小さくするために新規の外部からの資金調達を行わず、情報の非対称性の問題のない、逆選択の費用を伴わない利益剰余金(利益剰余に伴う手元Cashの意)を使うこととなり、結果、資本が利益で積みあがることによりレバレッジ比率が小さくなる。