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このブログは、いわゆるドメな日本人がMBAトップスクールに入るためにはどうすべきか、 という観点にフォーカスしており、私の経験/集めた情報をまとめたものです

マクロ経済1(ビジネスサイクル)

 

マクロ経済1(ビジネスサイクル)  

1. Business Cycles

 

A. ビジネスサイクルとは

ビジネスサイクルとは、好景気(boom:需要が供給より多い)と不景気(recession:需要が供給より小さい)のサイクル(景気の良し悪しで変動するもの)で、GDP(Output)のトレンドにブレ(上振れ/下振れ、fluctuation)があることを示す。つまり、下図でリアルGDP(青線)がポテンシャルGDP(赤線)よりも上振れている/下振れているのは、ビジネスサイクルの変動(fluctuation)によって説明できる。

 

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ポテンシャルGDPとは過去のトレンドを考慮したCapitalや労働テクノロジーといった生産要素から計算される予測の総供給量を表すものThe Solow growth modelによる計算YS = Total factor productivity × Capital stock^1/3 × Human capital^2/3)で、これらの生産要素を投入しフル稼働した際に実現可能なGDPと考えられる(GDPの予測値/理論値)。

 

しかし企業が自社の設備や従業員をフル稼働させない場合には、実質の生産量は低下し、リアルGDP(実質GDP)はこの理論値であるポテンシャルGDPよりも低くなる(デフレギャップ:ポテンシャルGDPよりリアルGDPの方が低い)。

一方で、短期的に従業員に残業を強いたり、自社設備を限界以上に稼働させた場合には、実質の生産量が増加し、リアルGDP(実質GDP)はこの理論値であるポテンシャルGDPよりも高くなる(インフレギャップ:ポテンシャルGDPよりリアルGDPの方が高い)(長期的には自社設備や従業員を限界以上に稼働させることは不可能(生産設備のブレイクダウン、従業員の休養等)なので理論値の供給量に実質の供給量は収束するが、このように短期的には理論値を上回ることも可能)。

 

リアルGDPの方がポテンシャルGDPよりも高いとき、つまり需要が多いために企業が自社の設備/従業員をフル稼働以上に稼働させたとき、さらに新たな注文を受注したとしても企業はフル稼働以上にリソースを使用しておりさらに生産量を上げることが難しい状況であることから、企業は価格を上げることで需要を下げようとする(加えて従業員をフル稼働以上に働かせていることから残業代も必要となり、このコストも価格を押し上げることにつながる)。よってインフレが発生することになる。

 

このように企業が実際の需要に応じて供給量を変化させていると考えられることから、経済の実際の総需要をリアルGDP、実際の総供給をポテンシャルGDPと考え、リアルGDP(総需要)のほうがが大きい状態をインフレギャップ、ポテンシャルGDP(総供給)のほうが大きい状態をデフレギャップという。

 

このリアルGDPとポテンシャルGDPとの差をOutput Gap(GDPギャップまたは需給ギャップ)と言い、前述の通り、このOutput Gapはビジネスサイクルの変動(景気の変動)によって生じている。

 

なおビジネスサイクル(景気の変動サイクル)は5~7年程度といわれる。

 

このOutput Gap(リアルとポテンシャルの差異÷ポテンシャルGDP)を測定することで、現在のビジネスサイクルがどの状態にあるか(好景気か不景気か)を判断することができる。正の値なら好景気(景気過熱:需要>供給)、負の値なら不景気(景気停滞:供給>需要)。よって、Output Gapが高いときは失業率は下がるという関係となっている(Okun’s Law:Output Gapと失業率は負の相関関係)。

 

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またOutput Gapを測定することにより、マクロ経済全体の需要・供給の過不足関係を理解し、物価動向の先行きを予測することも可能と言われる(物価は景気に遅行して変動する傾向があることから、Output Gapは物価の先行きを推測する材料としての役割を担っている)。またこのような性質から、Output Gapはデフレ状況を判断するための指標の一つでもある。

 

ビジネスサイクル(景気がどのような状況にあるか)を判断するにあたって留意すべき事項としては、たとえOutput Gapがネガティブだとしても、リアルGDPおよびポテンシャルGDPともに成長している場合も考えられるということだ(Growth recessions:つまりリアルGDPの成長率がポテンシャルGDPの成長率よりも低い場合)。また逆に日本のように、Output Gapがポジティブだとしてもその理由がポテンシャルGDPの成長率が小さくなったことに起因する場合もある(リアルGDP成長率の絶対値も小さい)。

 

なおOutput Gapの水準は、ポテンシャルGDPの計算方法によって大きく異なるため、絶対水準ではなく、時系列変化を見ることが重要である。

 

またグローバル化の進展に伴い各国のビジネスサイクルはそれぞれ同じような動きをするようになっている(more correlated between countries)これは一つの国の経済が悪くなるとその国の輸入ニーズも減り結果として他国からその国への輸出も減り他国の経済も悪くなるという悪循環となるリーマンショックも世界的に景気悪化につながった

 

各国のOutput Gap

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なおビジネスサイクルは、好景気(ExpansionOutput Gapがポジティブ)のほうが不景気(ContractionOutput Gapがネガティブ)よりも長くなる傾向にある(G7で約2.7倍、アフリカで約1.2倍、ラテンアメリカで約1.8倍、アジアで5.6倍)。

 

またビジネスサイクルの変動の影響を最も受けやすいインダストリー/業種は建設業(Construction)でピーク時は年間+16%、悪いときは年間-13%と業種別GDPが大きく変動している。製造業(Manufacturing)も影響を受けやすくボラティリティが大きい(年+8%、-14%)。一方で、サービス業および公共セクターの業種別GDP成長率のボラティリティは小さい(公共セクターが最も小さい)。

 

 

 

 B. ビジネスサイクル(景気変動)の変動/ブレを抑えるメリット/デメリット

Pros

  • 一部の影響を受けやすい世代/人々を守る:景気後退(Recession)時には、全体的な国民の消費量は大きく減少しないかもしれないが(全体消費量はビジネスサイクルの変動にそこまで影響を受けない)、業種によって影響度合いが違ったように(建設業のほうがサービス業よりも景気変動の影響を受けやすい)、お金のない若年層(20代以下)やUnskilledな人々への影響は大きい(景気後退時における彼らの消費量の減少率は他の世代に比べて大きくなる傾向)。
  • 雇用の確保:人々はインフレよりも失業することについて懸念しており、景気後退時に失業率が増加した際(Output Gapと失業率には負の相関あり)、より幸福度合いが減少する。
  • 投資活動の促進:ビジネスサイクルの変動はGDPボラティリティのみならず、企業利益/企業のCFのボラティリティも発生させる。そのため、経済/GDPの変動が大きくなると企業の投資によって生み出されるCFのボラティリティも大きくなり、結果として企業の投資活動を妨げ、長期的な成長を阻害する恐れがある。

 

Cons

  • 最終的な経済成長には必要悪:経済成長が強い状態においては企業にとって生産効率を高めるために生産プロセスを変更したり、生産を一時中断し新たな設備を導入することに関するコストは高くなるが、不況時においては設備や従業員に余裕があるため生産性を高めるためのリストラクチャリングが実行しやすい。加えて不況時の企業競争は自社の体制を立て直すインセンティブが働きやすい。結果として、不況後の好況時においては、生産性の向上により、さらなる経済成長が可能となる。

 

なお過去データからは、相関関係はそこまで大きくないものの、GDP成長のボラティリティが低いときはGDP成長率が高まるという結果となっている。

 

 

 

C. ビジネスサイクル(景気変動)のドライバー

ビジネスサイクルはDemand shocksとSupply shocksの2つで動くが、主にdemand shocksで動く(マネーサプライの変動によるnominal demand shocksと金融政策(monetary policy)以外の要因(消費や投資の変動)によるreal demand shocks)。

 

・Aggregate demand総需要

YD = Consumption + Investment + Government + (Export-Import)

総需要は消費投資政府支出Government consumption of goods and services純輸出輸出-輸入の4要素で構成されこれらのうちどれか一つでも変動するようであれば総需要が変化しDemand shocks総需要曲線の移動が起きる

なおリアルGDPを構成する4要素の中でConsumptionが最も大きく(5~6割)、ついで水準がよく変動する(ボラタイルな)Investment(2~3割)。

 

総需要曲線

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Demand shocksを引き起こす要因例

  • Consumptionの増加:人々の所得に対して消費にまわすお金が増える(例:人口に占める若年層が増加し、若年層のソーシャルに使う金額の大きさゆえに所得対比の消費量が増加する)。
  • Consumptionの増加:所得税の減税。
  • Investmentの増加:金利は変化していないにもかかわらず、人々がさらに投資をしたくなる(アニマルスピリット、例えば90年代のテックバブル)。
  • Governmentの増加:政府の支出/消費の増加。
  • Export - Importの増加海外における需要の拡大
  • 全4要素の変化:金融政策(Monetary policy)によるマネーサプライの増加(金利の押し下げ)。

 

 

・Aggregate supply総供給

YS = Total factor productivity × Capital stock^1/3 × Human capital^2/3

総供給は、資本及び人的リソース(労働力)、テクノロジーといった要素の掛け合わせで計算される。また総供給曲線は短期と長期とで曲線の形が変わってくる。

 

短期と長期の総供給曲線(サプライカーブ)

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実質GDP(ここでは実際の供給量/Output)がポテンシャルGDP(フル稼働時の供給量、最大値)よりも低いとき(上図でいうX軸の左の方のY(0))は、前述の通りOutput gapがネガティブであり(デフレギャップ、不況時)、設備や労働力には空きがある状況である(稼働していない設備や時間が余っている従業員)。そのため、そのような供給過剰な状態で需要が増加した時には、既存の使用していなかった設備や労働力を稼働させることで対応できるので、新たなコストはかからず(マージナルコストは上昇せず)、物価上昇なしでOutput(生産高、ないし実質GDP)を高めることができる。そのため、このような状態における短期的な総供給曲線はフラット(水平)になる。

 

ただ時間の経過とそれに合わせた需要の増加と共に稼働していなかった設備や労働力は減少していきさらなる設備投資による設備増強や人員増強が必要となっていき新しく一単位当たりの生産高を増やすためのコストマージナルコストが増加し始め供給量を増やすとともに物価も上昇していくこれにより総供給曲線はフラットから右上がりの曲線へと変化するMedium-run supply curve

 

そして長期的には1ビジネスサイクルの変動が完了する約10年以内のタイムスパン供給量は経済全体の設備と労働力をフル稼働させたあるTFPの水準でときの限界値に収束する設備と従業員を残業を強いたりフル稼働以上に稼働させることは短期的には可能だが長期的にその限界以上の水準を維持することはできないそのようなこれ以上供給量を増やすことができない状態においてさらなる需要の増加があった場合供給量は増やせないので需要を抑えるために価格を上げることとなるOutputは増加しないのに価格だけ上昇するこれが上図におけるLong-run supply curve長期の総供給曲線が垂直になる背景である

 

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Supply shocksを引き起こす要因例

 

例えばオイルショック原油価格の上昇)が起きた場合、まず企業の生産コストが増加しこれが売価に転嫁され、物価が上昇する。そして需要が変わらない中で価格のみが上昇するために、取引量も減少することとなり、インフレと不景気(Stagnation)の複合状態であるスタグフレーションになってしまう(下図:供給曲線がネガティブにシフト(左シフト))。

 

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参考資料

https://www.komazawau.ac.jp/~kobamasa/reference/news/news02/GDPgap/Nomura_GDPgap_ESP2009summer.pdf

http://toyokeizai.net/articles/-/177350

http://dawkinian.doorblog.jp/archives/21907728.html

http://keiei-manabu.com/economics/totalsupplycurve.html